秋は鯛、鯛は糸島。
生産者: 福吉水産 釘本伊勢光さん・久美子さん(くぎもといせみつ・くみこ)
秋は鯛、鯛は糸島。
糸島は、天然真鯛の漁獲量が日本一です。農林水産省が発表する海面漁業生産統計調査では、2位以下を大きく離し8年連続(2012年~)真鯛の水揚げ量日本一を記録しています。
旬をむかえた日本一の糸島の鯛を、お届けします。
1000年つづく、糸島の鯛。
平安時代の延喜式(927年)には筑前国の特産品として朝廷に献上されていたという糸島の真鯛。この玄界灘における鯛漁は、1000年以上続く伝統ある漁なのです。
鯛と日本人との歴史は長く、日本各地の貝塚から鯛の骨が出土しておりその付き合いは縄文時代からともいわれますが、糸島の「新町遺跡」や「岐志本村遺跡」などの縄文・弥生時代の遺跡などからやはり鯛の骨などが見つかっているということです。
鯛は鯛でも、糸島の鯛。
1000年以上続く糸島の鯛漁。今でも日本一の水揚げ量を誇ります。しかも糸島の鯛は、天然真鯛。” 玄界灘の鯛はなくならない”のです。これにはいくつか理由があります。
ひとつめは、玄界灘の地形。成長した真鯛は水深30~150mで生息しますが、まさに玄界灘の大陸棚がこの水深にあたります。また、いたるところに島礁や岩礁があり、鯛が好む地形となっているのです。広く太陽光が当たり、エサとなるプランクトンもよく育ちます。
つぎに、水温。真鯛は温帯の魚であり、水温14~20℃くらいを好みます。このあたりの水温は、対馬暖流が流れ込むことから年間をつうじて16.5~18.5℃。また、鯛は寒い冬から春になって水温が14℃にあがるころ産卵期をむかえますが、玄界灘は水深30mで冬は水温11℃、春に14℃となるため、産卵に適した温度も持っています。
糸島の鯛は、糸島で産卵し、成魚となり回遊し、春にはまた自身のうまれた海に戻り産卵します。鯛がつねに帰ってくる場所、それが糸島の海なのです。
伝統の、糸島の鯛漁。
糸島では、伝統的な「吾智網漁(ごちあみりょう)」で鯛漁を行います。円形の網の両端に引き綱をつけたもので包囲網をつくり、鯛を追い込み一気に水揚げします。二双で行う漁師が多いようですが、一双で行う場合もあります。
吾の知(智)恵を使って漁を行うというのが語源で、潮目や魚の習性をよく知る漁師ならではの漁法。糸島の漁師は、代々これを継いできています。吾智網漁は例年1月~4月は禁漁期間。糸島の海の資源は、こうして保たれています。
漁から戻ると、家族総出で鯛の処理。鯛は翌朝には〆て市場や直売所に並びます。
鯛を捌くのは漁師の奥さんたちの仕事。まるで簡単そうに、華麗に捌きます。
地元オススメおいしい食べ方、ワン、ツー、スリー。
糸島福吉の漁師、釘本伊勢光さんと、奥さんの久美子さんを訪ねました。釘本さんは3代続く福吉の漁師。一双吾智網漁で鯛などをとっています。
「建ててもう50年経ったかな」という、釘本さんの加工場におじゃましました。「釣りたてより、寝かせた方がおいしい。釣りたてのコリコリした食感もいいけど、寝かせることでむっちりとした歯ごたえに変わり、脂がまわって味もよくなる」。
久美子さんに、昨日とれたという鯛をさばいてもらいました。専用の機械で豪快にうろこを落とし、目にもとまらぬ速さで二枚におろされていく。
「見てごらん、これが脂の土手。内臓に脂肪がたまってるのよ」。身は脂でキラキラと光っています。
やはり、刺身がいちばんという。「鯛に限らないが、皮と身の間に脂があるので、皮は付けたままがいい」。ただし、皮はそのままではかたいので、「炙りか、湯通し」。
半身の中心部分には骨があるため、その部分をとって分かちます。ちなみにこの骨の部分を廃棄せず生かして、カルパッチョ用ドレッシングを開発中とのこと。
バーナーで炙ったら、冷蔵庫で少し冷やす。バーナーがなければ、「フライパンで皮だけ焼くでもOK」。網にのせたり串にさして、ガスコンロで直火もおいしいとか。
湯通しは皮からお湯をかけて、こちらは氷水にドボン。一気に締めます。
どちらも、刺身用に厚めに切ります。
つけだれもいろいろ用意していただきました。
これはレモン汁。なにも足さず、レモンを絞っただけ。これがまたかなりの美味で、九旬スタッフから「んんー!」という声が上がる。
これが開発中の、鯛の骨をつかったドレッシング。刺身にドレッシング、相当アリです。
そして、シンプルに塩。塩とレモン汁、塩とワサビなども酒に合いそうなおいしさ。もちろん、九州の刺身醤油も。
半身を薄めに切ったら、鯛茶もいいとか。ごましょうゆで漬けにして、出汁をかけていただきます。半生の鯛の食感が格別だとか。漬けにすれば2、3日もつのでストックにしても。
取材のおみやげにもらいました、釘本さんオススメの鯛のコンフィ。オリーブオイル100%でオイル漬けしたもの。冷凍商品ですが、常温でも2か月はもつとか。
基本データ
マダイ。4月に産卵。3月までとれるが、9~10月のものが美味。糸島ではセダイ、ヒエダイ(平鯛)、チコダイ(チダイ)などもとれる。伝統漁法「吾智網漁」でとれる天然真鯛は、7年連続日本一の漁獲量。